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「西アフリカの文化大国マリについて」

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「西アフリカの文化大国マリについて」



はじめに

私は、昭和54年に同志社大学経済学部を卒業、同57年に東京の外務省に入りました。昨年退官するまでの40年間の在職期間の半分は海外で、東南アジア、西欧、アフリカの計5つの国に赴任しました。最後の国は、日本大使として6年間勤務した西アフリカのマリ共和国です。
日本ではあまり広くは知られていませんが、マリは、アフリカ有数の文化大国です。そして今、軍事クーデター政権の下で、専制主義国陣営の一員としての旗幟を鮮明にし、分断と対立が深まる世界情勢の尖端に身を置いています。
このマリについてご紹介します。

マリのあらまし

マリ共和国は、北から南に砂漠・ステップ・サバンナと3地帯が連なる、旧「仏領スーダン」の領域をそのまま継承した面積124万平方キロメートルの西アフリカの内陸国です。アルジェリアなど7か国に囲まれたこの国に、中央年齢15歳の、約2.1千万人の多彩な民族構成の国民が住んでいます。
その65%を砂漠、すなわちサハラ砂漠が占めるマリの国土は、輸出量アフリカ第三位の金、また近年開発が始まったリチウムなどの鉱産資源を有し、重要な外貨源である綿花や畜肉を産します。ニジェール川流域では米作も行われており、米はキビと並び人々の日々の主食となっています。GDPは約191.4億米ドル、成長率は3.1%です(世銀2021年)。
「公用語」である仏語と並立する「国語」として、人口で最大の南部の農耕民バンバラ、サヘル地域の西から東に広がる遊牧民プル、またベルベル系で北部に割拠するトゥアレグ、などの諸民族の言語、さらにアラビア語マリ方言他全13の言語が定められています。
人口の95%がイスラム教を、4%がキリスト教を信仰していますが、人々の生活の基部で古くからの先祖崇拝・精霊信仰が息づいています。

マリの魅力

マリの魅力は、まず、その豊かな文化です。音楽、舞踊、絵画、民芸品等々どれも秀逸で、多くの世界的なマリ人芸術家・文化人が活躍中です。
そして、この豊かな文化の背景にある深い歴史です。マリの地に、4世紀から16世紀にかけ、ガーナ帝国、マリ帝国、ソンガイ帝国など、金その他の物産を支配しサハラ交易で栄えた諸民族の国々が興亡し、世界文化遺産を今にもたらすトンブクトゥなどの都市が生まれました。14世紀の君主マンサ・ムーサの豪華なメッカ巡礼で威勢を轟かせた帝国の名「マリ」は、1960年の独立に際し、国号に選ばれました。諸帝国の栄光の歴史は、困難な状況の下にある今のマリの人々の、大きな心の支えとなっています。

イスラム過激派の脅威、軍事クーデターそして露「ワグネル」

マリの情勢は不安定です。北部の分離独立を宣言したトゥアレグ人武装勢力と国軍の間の内戦が起きた2012年以降、北部から始まったアルカーイダ(AQ)系、さらにイスラム国(IS)系のイスラム過激派の浸透・テロが止まらず、旧宗主国仏の対テロ戦駐留軍および国連PKO(MINUSMA)も展開したにもかかわらず、国土の相当部分が中央政府の制御の外にある、「治安危機」・「国家崩壊」とも評される状況が続いています。そして、2020年8月、翌21年5月と二回のクーデターを起こした国軍将校の軍政の下、政党政治は無力化され、仏との連携が基軸だったマリの外交・安保は反仏・親露へと一変しました。軍政が招致した、かの露民間軍事会社「ワグネル」の傭兵がマリ領内で活動中と言われますが、昨年8月に仏駐留軍が完全撤収して以降、イスラム過激派の活動は一層活発になっています。
今年2月23日、ニューヨークの国連総会の議場で、露軍のウクライナ領からの無条件即時完全撤退を求める決議が票決に付されました。国連加盟全193カ国のうち、露、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、マリなど僅か7カ国が反対票を投じました。

日本とマリ

日本とマリの外交関係はマリが独立した1960年に始まり、2008年、マリの首都バマコに日本大使館が開設されました。 毎年の援助額では、日本は西側ドナー国のうちで10位に入るかどうかといったところですが、日本へのマリ官民の評価は高いと言えます。良心的な日本の協力の定評、そしてマリ全国を席巻する優秀な日本車の存在感があればこそのことと考えられます。マリで最大の自動車商社そして最大の医薬品商社はいずれも、同経会会員貸谷伊知郎社長の豊田通商の完全子会社で旧仏領アフリカにおいて長年にわたり重きをなしてきた総合商社「CFAO」の、マリ現法です。この「CFAO・MALI」と「LABOREX・МALI」の日系2企業が、マリの経済・社会活動そして公衆衛生の維持に不可欠な役割を担っていることは、現地では容易に体感できます。特筆すべき事です。
マリは、潜在力を有しています。暫定大統領ゴイタ大佐を長とする軍政自らが国内外に公約する明2024年2月の大統領選=民政移管が行われ、国際社会との健全な協力により民主主義と法の支配が定着し、そして平和と安定が回復され、経済・文化等々、日本・マリ両国にまたがるさまざまな活動が盛んになることを願っています。

今思うこと

外国に暮らし、その国また第三国の人々と睦み、競い、そして日本に思いを致すことができる海外勤務。なかなか面白く、味わい深いものだと思います。偉大な国際人新島襄先生を校祖とすることを誇り、「国際」を掲げる同志社です。同志社の若い皆さんには、日本の国内法は適用されず、日本社会でおなじみのいろいろな仕草が忖度される必然もない空間である海外のシーン、できれば国際社会の主流を成す欧米のシーンに、1年でも進出してみることをお勧めします。地平は画期的に拡がるでしょう。
海外に打って出て作用することの重要性、昭和57年の春、東京・茗荷谷の外務省研修所の講義にて、同経会名誉顧問でもあられる千玄室大宗匠が、新入省員に説かれたところです。



著者:黒木大輔(昭和54年経済学部卒)

【略歴】
-1982年 外務省入省
-1983~85年 仏パリ国立東洋言語文化学院
(INSTITUT NATONAL DES LANGUES ET CIVILISATIONS ORIENTALES)インドシナ科留学以降
カンボジア和平、青年海外協力隊、OECD多国籍企業ガイドライン等関係の事務に従事。
-2013年 南部アジア部南東アジア第一課地域調整官(RCEP交渉官)
-2014年 国際協力局専門機関室長
-2016~22年 駐マリ大使
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