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「2023年同経会卒業生のつどい」での同志社大学法学部村田晃嗣教授ご講演要旨

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「2023年同経会卒業生のつどい」での同志社大学法学部村田晃嗣教授ご講演要旨



同志社大学法学部村田晃嗣教授ご講演要旨
2023.7.8「同経会卒業生のつどい」において

タイトル「ウクライナ戦争と日米中関係」

☆はじめに
▼ロシアがウクライナに侵攻したのが、昨年の2月24日、1年4か月以上にわたり、国際政治に暗い影を落としている。

〇何故ウラジミールプーチン大統領がウクライナ戦争を始めたのか。
▼本当のところはわからないが、ロシアが長期的に見てどんどんと衰退の過程にあるというあせりが根底にある。

・1975年のソ連のGDPはアメリカのほぼ4割で米ソ冷戦といわれて競っていた。1991年にそのソ連が崩壊し、その時のソ連のGDPはアメリカの14%しかなかった。そして今日ロシアのGDPはアメカの7%、そして中国の10%しかありません。アメリカや中国と対抗しうるような意味での大国ではなくなりつつある。

・これ以上ロシアが弱体化して大国としての地位を失う前にウクライナを完全に支配し、大国としての基盤を固めることが根底にある。これが一番の理由。

〇8千キロも離れている彼方の戦争に日本人が何故かくほど強い関心が高いのか。
▼第一に、私たちのくらしや経済に大きな影響を与えている。

今回の戦争はエネルギーと食糧を人質にとられ戦われている。ロシアにはエネルギーと食糧、ウクライナには食糧がある。ところがわが国は両方とも持っていない。エネルギーと食糧が人質にとられ、この戦争がながびくことはわが国経済にダメージを与えることは理を待たない。

▼第二に、戦争を起こした張本人のロシアは我々の隣人である。我々にとっても他人事ではいられない出来事です。

ロシアがドンバス地域を占領したまま終戦となるかもしれない。ウクライナにとっては国土の一部が占領されたままになる。これは我々が北方領土で経験したことである。ウクライナのことは我々にとって決して他人事ではない。

▼第三に我々の規範に対する大きな挑戦が行われている。だからこそ8千キロ離れた戦争でも我々は無頓着ではいられない。
・ウクライナはもともと核保有国だった。1991年ソ連崩壊により、1994年にアメリカとイギリスそしてロシアとウクライナの4か国でブダペスト覚書を結んで、アメリカ、イギリス、ロシアがウクライナの平和と安全を保障するとの交換に持っていた核兵器を放棄したわけです。核兵器を自ら放棄した国が、核保有国に攻撃されている事態になっている。これを国際社会が認めてしまって、日本が追認するならば戦後70数年間日本がうたい続けてきた核兵器のない世界は決して実現しない。

・核を自ら放棄した国が、核保有国の生贄になる、その事態を世界が止められないとなれば核兵器のない世界は決して実現しない。ウクライナで起こっているものは、我々の規範にかかわる問題といえようかと思います。

〇規範と言いますと、わたくしたち日本国憲法がイメージしている世界は、やがていつの日か国際連合による平和が実現する、そういう世界のイメージを抱いていることは疑いようもない事実であります。
▼私たち憲法が前提にしてきた世界のイメージ、国連のもといつの日か世界の平和が実現するであろうとのイメージを国連安保理事国が土足で踏みにじっているのです。

・憲法の前文に平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して我々の安全や生存を保持すると決意した。この平和を愛する諸国民とは、国際連合のことをさしている。国際連合憲章の第四条で国際連合には平和を愛するすべての国が加盟できる。我々は国際連合を信頼して生きていくことを宣言している。

・また憲法第9条は、戦争を放棄していることは間違いのないことです。世界に先駆けて戦争を放棄した平和憲法だということは明らかにミスリードになります。なぜならば日本国憲法は昭和22年に施行されましたがその2年前に国際連合憲章ができている訳です。国際連合憲章では世界中すべからく戦争は違法となっている。国連憲章の下では戦争は違法化されていたのです。憲法9条が言っていることは、厳密にいえば我々は国連憲章を守りますといっているのです。それ以上の強い意味は格段にないと私は思います。

・だからこそロシアは戦争とよばないのです。これを戦争と言えば国連憲章違反であることを自ら認めることになるからです。だから彼らはこの行動を特別軍事作戦と呼んでいるのです。

〇さらに我々の目の前で展開されている戦争は決してひとつの戦争ではない。すくなくとも三つの異なった戦争が同時に戦われている。
▼一番表面的にはロシアが隣国ウクライナに軍事進攻し、ウクライナがこれに抵抗している。

・ウクライナのGDPはロシアの15分の一ですから、もうあっという間に勝てるであろうと思っていた。当初、プーチンは大体10日間ぐらいを想定した。

仮にウクライナの一部に非常に危険な勢力がいて、ロシア系住民を迫害しているとの事実がもしあったとするならば、ロシアが最初にやるべきことは、この問題を国連安保理に提起することであり、単独で武力行使することではない。彼らは国連をスルーして単独で武力行使している。許されることではない。

▼二層目には、ロシアとヨーロッパとの戦いだと思います。私は根本的には価値観を巡った戦いだと思います。

・国際政治において軍事は極めて大事ですが、また経済抜きにして国際政治を話せないことは言うまでもない、だけどもこの軍事と経済は両方ともいうなればハードウェアの話、軍事は勝つか負けるかの話であり、経済は得するか損するかの話です。

・人にも組織にも、国にも勝つか負けるか、得か損かの判断とは別に正しいか、間違っているかの判断基準があります。価値観というものが存在する。人も組織も国も損得を超えて自分の信念や信条のために抗うことがあります。この価値観という国際政治のソフトウェアを無視してハードだけ語って国際政治を議論することはこれほど幼稚な議論はない。

・今、ロシアとヨーロッパはこの価値観をめぐって激しく争っているといえます。フランス革命以降、ヨーロッパが多くの戦争と革命を経験して、血を流し、命を失いながら培ってきた価値観、それは自由、平等、博愛であり基本的人権の尊重であり、国境の不可侵です。それを今、ロシアが土足で踏みにじっている。これをこのまま受け入れてしまえば、ヨーロッパはもはやヨーロッパでなくなってしまう。

▼この戦争の根底には、21世紀をリードするのがアメリカなのか中国なのか、米中の覇権争いが戦われている。

・今の段階でロシアは10万人の死傷者を出している、大変な損耗ですが、ロシアの軍事専門家は、我々はまだまだ戦えるという。10万人だけでなくあと5万人死んでも平気だと言っている。なぜならばロシアの軍隊は徴兵制ではなく志願制の軍隊です。志願制の軍隊には貧しい家庭の子供たちが軍隊にやってくる。確実に食を得られて家族を養うことができる。ロシアにおいてそれは主として少数民族にあたる。最も典型的なのは、中央アジアのイスラム系の少数民族です。だからこの軍事専門家はあと5万人死んでもかまわない、死ぬのはイスラム系少数民族だ。戦死者が出れば出るほどロシアの人口構成は白人有利となる。

・これは多分に強がり、強弁のところがありますが、ロシアのような国が耐えられる限度と、我々のような成熟した豊かな民主主義の国が耐えられる限度とは相当違う。ロシアがここまで粘れる理由は中国が付いているからです。逆にウクライナがここまで戦えるのは、アメリカの支援があるからです。

〇どんな戦争も必ず終わるということです。この戦いが終わる段階で我々が直面する問題に触れたいと思います。
▼経済制裁解除の大問題が我々を待ち構えている。

・三つの異なった戦争が今我々の目の前で展開されている。この戦争がいつ終わるのか全く分かりません。少なくともプ―チン大統領は来年11月のアメリカの大統領選挙を待っている。トランプが勝つ可能性はそれなりにある。トランプ政権になれば、アメリカのウクライナ支援は確実に弱化する。そうするとヨーロッパの支援も腰がひける。そう簡単に終わるとは思えません。

・ロシアとウクライナが和平交渉のテーブルに着いた場合、我々がやっている経済制裁の問題がある。交渉がまとまり戦闘が止まった時、経済制裁を解除しようとの人々や国々がある。一方では、冗談ではない、戦闘が終わったというだけで経済制裁を解除できるわけがない人々や国々がある。ロシアがウクライナに謝罪し、ウクライナに対し賠償する、そしてこの戦争を引き起こした責任者を処罰する、それらが済ませるまでロシアに対する経済制裁を緩める訳にはいかないという人々や国々にいる。

・経済制裁というのは、一般にかける時よりも解除する時がはるかに難しい。しかもどのタイミングで解除するのか、どの種類の経済制裁を解除するのか、これを巡って必ず西側の足並みが乱れます。そこにプーチンのつけ入る隙が生じる。

▼次に二点目としてウクライナからの600万人もの難民の問題が生じる。

・日本は千人規模ですが、一番受け入れている隣国のポーランドですが、推定では2百万人以上、大変な数です。今世界中の人たちはウクライナの難民に同情的です。

・けれどもロシアとウクライナの戦闘が終結したとしても3か月たち半年たち、1年たちまだ我々の国に何十万人のウクライナの難民がいる、まだ我々の町に何万人の難民がいる、彼らがいるから我々の国の若者の仕事がなくなる、彼らがいるから我々の町の治安が悪くなっている、彼らがいるからわが国の財政が逼迫する。今これほどウクライナに対して同情的な感情がやがて反移民、反難民、の感情に転じないとの保証はどこにもない。

・この6百万人を超える難民問題をどのように平和裡に解決するのか、戦闘が終われば非常に現実的な問題が我々に突きつけられている。

▼3番目に、インドはどこに向かうのか。

・日本、アメリカ、オーストラリア、インドで自由で開かれたインド太平洋を守りましょうというので、インドはこの立場では我々の味方となる。当然念頭にあるのは中国です。中国が法の支配を守らない、自由貿易を守らない、中国の勝手にはさせないとの枠組みでこの4か国がなっている。

・ロシアの侵攻に対し国連での非難決議に際しインドは棄権の立場、国連の人権理事会でロシアを追放する決議でもインドは棄権でした。

・インドとロシアとの関係は特別だとの議論は可能だと思います。インドはソ連から武器を買い続けてきて、今でもインド軍の装備の6割がロシア製といわれている。インドがロシアに対し経済制裁をやるとインド軍の武器の調達ができなくなる死活的な問題となる。

・日本政府はよく世界で最大の民主国だといいます。だけども数千年にも及ぶカースト制度、身分差別制度が今もインド社会に息づいている。インドはLGBTなんかまったく興味がない。

・インドがどこまで、我々4か国やヨーロッパ諸国と価値観を共有しているのか。世界第1位の人口大国、やがて世界第3位の経済大国となり、かつ核保有国であるインドが、ポストウクライナ戦争を超えてどこに向かうのか、国際政治の大きな問題として我々に突きつけられている。

・インドは非常に独自、独立志向ですから、中国やアメリカのいうことも聞かない、もちろんロシアのいうことも聞かない。インドに対し真摯に向き合わなければならない。

☆次は大急ぎで日米中関係に移りたい。

〇アメリカでは何といっても先ほど申し上げた来年11月4日に大統領選挙を控えている。

・共和党ではトランプ前大統領が最も有力な候補であります。実に37件の訴訟を抱えている。詐欺、脱税、公文書の秘匿、権力の濫用その他で37件、連邦と州のレベルで大統領経験者が37件もの訴訟を抱えている。前代未聞の出来事であります。この人物が共和党では断トツの人気を誇っている。このまま共和党の大統領候補になる可能性は極めて高い。

・民主党では現職のバイデン大統領が出馬を表明していますから、現職が出馬となると民主党もバイデンで決まると思います。バイデン大統領の問題はすでに80歳、今年11月が81歳、来年82歳、もし当選したら82歳から86歳まで大統領を務めることが本当にできるのか、バイデンの高齢および健康の問題がある訳です。

・バイデンが再選されたとしても任期の途中でバイデンが病で倒れるとなったら、副大統領が務めなければならない。今はカマラハリスさんというかたが副大統領、黒人の女性、あまり人気がなく政治家としての経験も浅い。バイデン、ハリスのコンビでいいのか、との議論もある。

・ハリスさん起用には黒人で女性であるから起用されている。ここで彼女を外すとなると選挙対策からすると相当厳しい。そこで今、ワシントンの中ではいろんなことを噂されていますが、一部の人たちはハリスでは荷が重いから、バラクオバマでどうか、さらに別の人たちはオバマでもミシェルがいいのだと、ミシェルオバマ元大統領夫人、彼女はすごく人気がある。オバマ夫婦のどちらかを担ぎ出そうとの話が出ていて、それくらいアメリカの大統領選挙は混迷している。トランプ対バイデンの再現を我々はおそらく見る可能性があるのではないか、その可能性が高い。

・私はかなりの確率でトランプ政権パート2が戻ってくる可能性がある。もう一度我々はトランプの世界に向きあうのかもしれない。その時にウクライナ戦争はどうなるのか、かつてトランプの世界パート1の時には日本には安倍晋三という政治家がいて、トランプの懐に食い入って日米関係を何とか維持したわけで、間違いのないところです。安倍晋三のいないトランプの世界パート2で我々はどのように生きていくのか、まじめに考えなければならない事態に立ち至っている。

〇中国は、習近平の個人独裁と中国共産党の一党独裁で中国は盤石なのか。中国も非常に脆弱だと思います。

▼一つに中国がやってきたコロナ対策が完全に失敗。

・14億人の中国で数億人をロックダウンするやり方が完全に破綻して、ロックダウンを解除したら瞬く間に、百万人単位で中国人がコロナで死んでいる。また自国製ワクチンの製造も完全に失敗だった。効かないワクチンを彼らは打ち続けてきた。これをファイザーやモデルナに変えたら習近平の誤りを認めることになる。今更変えられずに中国製ワクチンを続けている。

▼二つ目に、より長期的にみると人口問題がある。途方もない人口減少が中国を待ち構えている。

・合計特殊出生率、平たく言えば一人の女性が一生の間に何人の子供を産むかの数、統計上この合計特殊出生率が2.06~07で人口規模を維持できると言われている。

・2年前に中国国家統計局が出した数字は1.3、日本と中国はほぼ同じ、因みに世界で一番合計特殊出生率が低い国は韓国で0.78です。台湾も1.22レベルです。つまり東アジア文化圏はみんな軒並み低い。

・ハーバードの女性の社会学者が最近出した本でいっているのは、儒教圏はみんな低いと言っている。明らかに共通点があって、夫婦間で夫の家事労働従事率が明らかに低い。日本の場合、夫の家事労働従事率は15%程度、アメリカは30%、スカンジナビアは4割ですから。儒教文化圏は依然として男尊女卑で夫が家事をやらない。

・中国国家統計局が1.3と言っているのは、確実に1.3を切っているのです。国連はおそらく1.2ぐらいだろうとみている。中国国家統計局の発表を鵜呑みにして1.3だとしても中国の人口は今世紀の末には半分ほどに減ります。7億です。そして1.2であればあと50年で中国の人口は半分になります。

・ゴールドマンサックスは少し前までは2028年ぐらいに中国のGDPはアメリカを抜くといっていましたが、ヨーロッパ系のシンクタンクやコンサルティング会社のなかには、そもそも中国はアメリカを抜けない、中国が世界一になる時代はやってこないとの予測をする声も出始めている。

・我々安全保障を担当する専門家の間で言われていることは、強い中国と弱い中国とどちらが脅威なのか、おそらく急速に弱くなっていく中国の方が危険なのではないか、まだ何か大きな現状変更を行う力を発揮できると思いつつ、しかしまだアメリカを抜けないと自覚し急速に衰えていく中国が実は世界にとって一番危険なのではないか。そういう中国と今しばらく我々は向き合っていかなければならない。

〇日本はアメリカと中国という二つの超大国の狭間にあります。

・米ソ冷戦時代に西ドイツが経験したような立場に今我々はいる。

▼日本の合計特殊出生率1.26でこのまま推移すると、急激な人口減少、50年間で4千万人も減るという。

・言い換えるとあと50年の間に四国が11回なくなることです。四国の人口は350万人ですから。あるいは九州が3回なくなる、九州は13百万人ですから。

▼高齢者の問題も著しくて、今日本中で百歳以上のお年寄りは8万人いる。

・8割は女性です。そしてほぼ8割は寝たきりです。今世紀の半ば2050年には東京大学の高齢社会総合研究機構が出している数字で百万人です。もしこの30年で医療が進歩して寝たきり老人が5割に改善したとしても50万人が寝たきりとなる。

▼これだけ労働力が減少していくと外国人労働者を受け入れざるを得ない。

・日本の人口に占める外国人は2.3%、都道府県別でみると東京が一番多くて4.3%、突出しているのが新宿区で12%が外国人、すでに8人に一人が外国人です。今のペースで外国人労働者に来ていただくと2060年ぐらいに1割となり日本全体が新宿区になる。

▼2050年とか2060年を想定した時に、九州が3回ほどなくなる人口減少、もしかしたら100万人が百歳以上、その半分が寝たきりかもしれない、10人に一人が外国人かもしれない。我々が生きてきた時代と全く異なる日本社会を次の世代に引き渡そうとしている。

・このまま次世代に引き渡すというのはあまりにも無責任。外交安全保障分野、経済の分野、社会保障の分野、そして同志社が関わっている教育の分野、四つの分野でこの2060年の日本社会は概ねこうなっているのだから、2050年までにはそれぞれの分野で何がなされていなければならないのか、2040年までにはどうなのか、そして我々が現役で働いていて納税している2030年までにはこの四つの分野で何を達成していなければならないのか、次世代への責任を果たすということを我々がやっていかなければならない。

☆非常に厳しいウクライナ戦争が大きな影響を及ぼし、米中がまだまだ熾烈な競争を展開し、国力の衰退する日本が二つの超大国の狭間にある中で、あと10年、20年生き延び同志社が創立150年ではなく創立200年を祝う時に日本はどうなっているのか、そのためにはさかのぼって、今、10年後、20年後にそれぞれの分野で何ができるのかということを、それぞれの立場で何ができるのかを考える責任があるのではないかということを申し上げまして、大変とりとめのない話でしたが、終わらせていただきます。どうもご清聴ありがとうございます。

以上 

文責:同経会総務支援委員会 広報・HPチーム
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